2010年1月19日火曜日

「ヤクザが店にやってきた」

宮本照夫著 朝日文庫 2000年

人の話を聞かない人は苦手だ。
なぜなら僕が人の話を聞かないからであり、会話にならない。
腕力に物を言わせる人も嫌いだ。
昔、結婚披露宴のアルバイトで同僚に蹴られて痛い思いをした。

さて、この本はヤクザや暴力団と対峙する一介の飲食店経営者の物語だ。
想像だが、暴力団の人々は上に挙げた二つの性格を兼ね備えている様に思う。
実のところ、あるいは用心棒として、あるいは言いがかりを通じて、水商売の人々に関係を持とうと日々干渉があるらしい。

著者は複数の店舗を経営している。
いさかい事の数はそれだけ多い。
そのうちの一つだったと思うが、麻布に出店された焼肉店には、友人に招かれてお邪魔したことがある。
立地の割に安く、腹も舌も満足する店だ。

焼き肉屋さんの親分が片手間に書いたものだと邪推して、衝動買いしたものの、あまり読みやすい文章は期待していなかった。
ところが、控えめで淡々とした語り口で描き出す出来事の数々は生々しく、司馬遼太郎にも比べたいほどの躍動感があった。

ハイライトは後半の、九州太郎氏のくだりだと思うけど、この人物は関西のある暴力団のトップで、いわば著者の敵役にあたる。
ここに刑事が加わって、三者の微妙な力関係と思惑が交差する。
お互いの身分を越えて、いつしか敵役まで惚れ込ませてしまう著者の背中がシブい。




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