2010年1月7日木曜日

「一九八四年」

ジョージ・オーウェル著 高橋和久訳 早川書房 2009年

 「読んでいないのに、見栄によるのか礼儀によるのか、読んだふりをしてしまうという経験は万国共通らしく・・・」という文言で、「訳者あとがき」は始まる。
 また、巻末にある解説の冒頭には、「※この解説には、本書の結末に触れる部分があります。」とネタバレに対する丁寧な断り書きがある。

 以上のことから、この本は、最後まで読み通すのが困難であるということが分かるだろう。
 実のところ、読み進めるには多大の労力を要する。
 特に、物語中で禁書とされている、『あの本』の内容が記されたあたりは、何度も読むのが面倒になり、しまいには読み飛ばしながら話の本筋を追った。
 素直に話を読み進めていったとしても、後半の拷問シーンは読み手にも重荷を強いる。丁度、フルマラソンを走った直後に箱根登山を駆け足で強要されるような気分に近い。

「二十世紀世界文学の最高傑作」である。
「すぐれた文芸の発信源」を掲げた、「ハヤカワepi文庫」として発刊されている。この出版上の分類方法が、その他の、”epi”を冠さない早川文庫に駄作が多いという暗示にならないか心配した。

 SF小説の定義を知らないが、近未来SF小説っていうのはこんなイメージなんじゃないかと思う。
灰色の時間泥棒が闊歩する世界に例えられるかもしれない。
冬の寒空の東京の、例えば新宿西口あたりで読むと、感慨も深まるはずだ。永田町でもいい。
 ただ、物語の背景が特殊で精巧なわりに、舞台装置の描写がおおざっぱなので、ツッコミの得意な人には、物申したい部分が多いのではないかとも思う。
あんまり斜に構えて読むと良くない。




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