2008年11月27日木曜日

Zipfer

ウィーンのユースホステルの最寄り駅にあるピザ屋のおじさんに選んでもらったビール。
内田光子の演奏会で満足しきっていたので、味はよく覚えていない。
ただ、これを飲みながら味わう演奏会の余韻は至福でした。

ウィーン2 ローエングリン

Staatsoper
ウィーンの国立オペラ座には、当日買えるStehplatzという立ち見席があります。

並ぶこと数時間。見てきました。
一枚4ユーロという値段が嬉しい。昼ご飯を諦めても、オペラを見たいという若者もいるんじゃないか。
立ち見席といっても、ホール中心の円周上にあって、並んだ甲斐あって最前列に立てたので、ホール中程と視野はさほど変わらないと思います。
目の前の手摺一本の差で、値段は数十倍違うだろうとほくそ笑んでおりました。
四時間立ち続けるのは大変ですが。

演目は、ローエングリン。
今まで、ちゃんとワーグナーを聴いたことがなかった思う。
そもそもオーケストラの曲を余り知らないし、周知のようにワーグナーは熱狂的なファンが多いから、熱狂には一線を画したいと思う僕としては、十分に身構えてから惚れ込みたいと思って敬遠していたのです。
だから、ワセオケの「マイスタ」くらいしか、それも序曲しか知らない。

聞いてみて、手放しで喜んでいました。人間の機微をよく分かっていたのだろうと思う。
痒いところに手の届く音楽です。

そんなわけで、ストーリーについては全く分からず。時々ひろえるドイツ語の断片と、英語の字幕を横目で見るだけじゃ、何がなんだか。
エルザが狂気に陥ってしまうのですが、何やらスワンが迫り来るらしいです。
分からないなりに、要所要所の劇的展開に感動しておりました。いい加減なものです。

舞台装飾については、モノクロの基調にアクセントの黄色というよくありそうな色使い。
丁寧に見ると、黄色い小道具たちは、おそらくそれぞれ役割があるのだろう。
ダンプカー、白鳥、ウサギ。バナナのような角笛、鎖。家、花。などが登場します。
コーラスを務める、匿名性に満ち満ちた群衆、というのも、最近では珍しくないと思う。
演出としてあたらし感じはしなかったけど、どの場面も、構図がとても整っています。総合芸術。
第一、一世紀以上前の舞台作品が活き活きと現代的な装いを纏っていることに脱帽できる。

指揮者はLeif Segerstamという人だそうです。白髪の髭と長い髪。サバンナの奥地の酋長のような印象だった。
指揮台にたつだけで聴衆がどよめくという迫力。本人もそれを楽しんでいるのだろうけど。役者でした。

殺される人役の、太い声、腹。彼が殺された瞬間のクラリネットのソロは、こみ上げるものがあります。
ワーグナーは金管が花形だと思う。音は、塊だと思った。トロンボーンの太い声。トロンボーンの音は神に近いのだったか。アイーダトランペットと言うんだろうか、彼らが舞台上で奏でるファンファーレも、よく効いていた。バンダもかっこいい。
塊だけど、音楽は、一瞬ごとに変化するというところがいい。

休憩が二回あったので、コーヒーを2.6ユーロで所望する。
こういうとき、文化という言葉も悪くないと思う。確か、ヨーロッパでコーヒーを始めに飲み始めたのはウィーンだったと思う。トルコからもたらされたのではなかったか。嘘かもしれません。
オペラは社交の場でもある。シャンパンとおつまみに大枚をはたく紳士淑女たちの姿を尻目に、柱を背に一人コーヒーをすする。

国立オペラ座はリンクの要所にあって、装飾の施された石造建築が強い存在感を放っています。この石の塊に文化の営みが込められていると思うと、楽しい。
前日と同じ演目で再び起こっているであろう内田光子の奇跡をもう一度のぞいてみたくもあったのですが、幸せな二日間でした。

――ウィーンの記事――
□ウィーン  Eurolinesにて
□ウィーン1 内田光子の演奏会
□ウィーン2 ローエングリン
□ウィーン3 フンデルトヴァッサー
□ウィーン4 高射砲塔


Lohengrin
Inszenierung: Barrie Kosky
Bühne: Klaus Grünberg
Kostüme: Alfred Mayerhofer
Regieassistent: Birgit Rezaei
Bühnenbildmitarbeit: Monika Morsbach

Dirigent:Leif Segerstam
Heinrich der Vogler, deutscher König:Ain Anger
Lohengrin:Robert Dean Smith
Elsa von Brabant:Camilla Nylund
Friedrich von Telramund, brabantischer Graf:Falk Struckmann
Ortrud, seine Gemahlin:Lioba Braun

Staatsoperのウェブサイト

2008年11月26日水曜日

ウィーン1 内田光子


内田光子の演奏会が、ウィーンの主眼でした。
Konzerthausとローマ字で書いてみると、字面だけでも美しい。
由緒のあるホールらしいです。思い違いでなければ、イェリネクの映画版でここのロビーが使われていたはず。

一番後ろの壁に接して座っていたので偉そうなことは言えないのですが、響くとはこういうことなんだろうと思います。余韻は決して余りではない。
演奏会の雰囲気も華やかで良いものです。着飾る人もたくさんいました。日本の音大留学生らしき人々が、衆人を寄せ付けない美人度で闊歩していたのも面白い。演奏家は俳優業だと思う。

今回は、指揮者不在の演奏会です。
一曲目がストラヴィンスキーの弦楽合奏。
コンマスが息を合わせるべく大層がんばっていましたが、どうも全体にうるさいばかりで、これだけの人数でぞくっとするような間の取り方は体現しがたいもののようです。
もっとも、僕がこの曲を知らないせいも多分にあると思う。

続いて、モーツァルトの協奏曲が2曲。僕の好きな23番と、大きな室内楽のような24番。
協奏曲でソリストが指揮をしながら演奏することを、弾き振りというそうです。弾き振りは、ソリストがどう弾きたいかがホール全体に伝わるように思います。前奏の指揮だけで、しびれる。
これは、不倫に例えられると思った。
統率の取れない不良集団に突如現れた、底知れない魅力の女性、という組み合わせ。指揮者がそれぞれの本来の夫だろうと思う。
道ならぬものは燃え上がるのではないかしら。

モーツァルトはロマン派以上に過激でした。音のつやっぽさ、柔らかさ、深み。
きっと、作曲家自身も気に入るだろうなという演奏。
内田光子は蝶のようでした。

――ウィーンの記事――
□ウィーン  Eurolinesにて
□ウィーン1 内田光子の演奏会
□ウィーン2 ローエングリン
□ウィーン3 フンデルトヴァッサー
□ウィーン4 高射砲塔


Wiener Konzerthaus
内田光子
Chamber Orchestra of Europe

Chamber Orchestra of Europe / Uchida
Samstag, 15. November 2008, 19:30 - ca. 21:30 Uhr
Großer Saal
Interpreten
Chamber Orchestra of Europe, Orchester
Mitsuko Uchida, Klavier, Leitung
Alexander Janiczek, Konzertmeister, Leitung
Programm
Igor Strawinski
Apollon musagète / Ballet en deux Tableaux (1927-1928)
Wolfgang Amadeus Mozart
Konzert für Klavier und Orchester A-Dur K 488 (1786)
***
Konzert für Klavier und Orchester c-moll K 491 (1786)

2008年11月24日月曜日

ウィーン Eurolinesにて


先週末、内田光子の演奏会を聴きに、いそいそとウィーンまで行ってきました。


ユーロラインという格安バスがあります。
どうも、ヨーロッパの格安バス会社の寄り合いらしい。国ごとに管轄の主体がちがって、共通のパスはあるのですが、予約は出発地の代理店でないと出来ない仕組みになっています。
イギリスやらロシアやらまでも、この路線で網羅されているらしいです。
ブリュッセルのウェブサイトはこちら

ブリュッセルからウィーンまで、14時間。揺られに揺られて、往復106ユーロです。
鉄道より抜群に安い。
バスで国境を越えると、やはりヨーロッパは大陸なのだなと思う。
広いです。

物珍しかったので、記事にしてみます。
ブリュッセルのバス停は、まず多人種なことに驚きます。安いので、低所得な移民が多いという話は聞いていたのですが、彼らの迫力に圧倒されます。ほの暗い照明と、破れたポスターやら椅子の残骸やら手入れの行き届かぬ待合室の雰囲気の悪さに初めてヨーロッパで身の危険を感じる。
来るはずのバスを1時間弱待つことに。多カ国語で文句が飛び交います。こういう共感があれば、お互いの理解は早い。一転、和やかな雰囲気が生まれます。
到着がオンタイムなのが不思議です。

車内では、なぜか夜更けにタイタニックが放映されていました。確か、中学生の時に劇場で友達と見たのだけど、あらためて見返して、時の流れを感じました。昔は分からないなりに、なんて悲しいのだろうとか思っていたのだけど。夜行バスで静かに寝ようとしている僕の気持ちとは裏腹に、沈没騒ぎが続く。
体力を使う映画でした。
近い将来、30分くらいの要約版が出るのではないかと思う。

ウィーンは、クリスマスの準備が着々と進んでいました。

――ウィーンの記事――
□ウィーン  Eurolinesにて
□ウィーン1 内田光子の演奏会
□ウィーン2 ローエングリン
□ウィーン3 フンデルトヴァッサー
□ウィーン4 高射砲塔

二ヶ月のちの心境



初雪が降りました。

留学開始から、優に二ヶ月が経った。
格別、食べ物には困らない。シリアル、パスタ、パスタ、シリアル、ケバブ、パスタ。
時々、同室の作る日本料理と出国前に友人からもらったみそ汁を堪能しつつ。

フランス語が分からないことを理由に住民登録で門前払いを食らったり、スーパーで視線すら合わせずに会計する店員に気分を害したり、国鉄の定期を買うのに数時間も並んで結局買えなかったり、異文化に翻弄されることもなかったわけじゃない。
ただ、言葉も通じなければ通じないなりに人付き合いは出来るのだと思う。
身振り手振りの技術は確実に向上しています。

学校も、前半戦が終わった。これから設計に移る模様。
スペイン人二人と僕の三人チーム。

今、友人と共同生活している。10畳くらいのワンルームで、うち4畳くらいがサンルームになっていて屋外に突き出ている。キッチンもソファも付いている。列挙してみると、なかなか充実している。
ヨーロッパでは、若いうちに複数人が共同生活をするのは普通のことらしい。
寝ても覚めても同じ部屋の中に家族でない誰かの気配を感じるというのは、落ち着かないものだろうと思っていたが、慣れてしまえば何とでもなるものだ、とも思うようになった。
物理的にも精神的にも、セキュリティのない状態は身の引き締まるものだけど、持ち前の怠惰さがほどよいバランスをとっている。

遊牧民みたいな生活を目指している。
インターネットがあれば、自分の管理している情報が全て手に入る。
持ち物は、パソコン、筆箱、ノート、少々の衣服と少々の本と箸とマイカップ。
必要なだけのお金があって、さっと旅に出て、さっと日常にもどる。

それでも、物欲はつきない。
TSUTAYAでDVDを借りたり、見ないまま返したりしたい。
BOOKOFFで立ち読みしたい。読まないくせに100円の岩波文庫を見つけて、かばん一杯に買って帰りたい。
ウォッシュレットが欲しい。
山手線の発着ベルにイライラしながら、人混みに埋もれていたいとも思う。

ということを考えながら、ブリュッセルの移民街でケバブに舌鼓をうつのも、よいものです。

2008年11月6日木曜日

study_visit マーストリヒト

Study Visitの第四回目は、マーストリヒトに行ってきました。曇り空ですが降らなくて良かった。オランダの国境を越えて、ブリュッセルからはバスで二時間です。

セラミック工場だった敷地を、都市デザインで再開発したとのこと。
敷地はマース川を挟んで中心市街地に向き合っていて、要所にありながら街の発展を抑えていたとのこと、地主を口説くのに10年かかったとのことです。

アルヴァロ・シザ、アルド・ロッシ、マリオ・ボッタなどの建物があります。
僕は無批判なので、逐一、へえこれがですかと馬鹿みたいにつぶやく。


ヨークーネンの図書館。旧市街からの入り口にあって、コミュニティの中心を担っています。
スペイン人の留学生と、ここはオランダだよね、だから面白い建物があるんだよね、という話をしました。
バスで二時間の距離にどんな文化的差異があるのか、隣国は確かに違う雰囲気です。




シザの集合住宅
たしか一戸2億円だとか言ってました。
間取りは見られず。外見はきれいですが。







ボッタの集合住宅
やはり丸い。
やはり間取りが気になる。







かつての敷地境界の壁。今は、穴があけられています。
外を覗くとこのように見える。完全に壁を取り払ってしまうより、楽しい。







アルド・ロッシの博物館。展示作品は知りません。次回入ってみたいと思う。
写真は、川に面した塔。有名な部分らしいです。







内部階段。ここでも、自然光は重要らしい。
何が良いのか分からないけど、おやまあと思った階段室。
電球とか、四角の比率とか、階段のバランスとかなんだろうと思う。











旧市街地の様子。クリスマス近づく。
今ちょうどセールの時期みたいです。
ブリュッセルも洋服が安い。










役目を終えた教会を本屋さんに改修しています。ここは、びっくりした。
入って左半分が吹き抜け、右半分に床を足して面積を増やしています。
カトリック人口が減って空き家になったものだとか。
この手の改修のバリエーションで、教会→ホテルもあります。

http://www.chateauhotels.nl/default.aspx?sc=7&taal=nl







かつての城壁。草木深し。石そのものの持つ魅力もあるけど、風化の歴史を想像するだけで、ずいぶんな迫力がある。
城壁のあるおかげで、中心市街地が散歩サイズに収まっているのだろうと思う。






――study visit 学校の見学会――
第一回 study_visit Tour & Taxi
第二回 study_visit ゲント訪問 
第三回 study_visit リエージュ
第四回 study_visit マーストリヒト
第五回 アントワープ

2008年11月4日火曜日

酒池肉林とブルージュ

僕の所属とは別の研究室ですが、教授が日本から来てくださいました。
リサイクル技術の視察にドイツから始まって、ぐるっと移動して来たそうです。
先生、ベルギービールに精通していて、味の説明を聞いては「じゃあ、飲んでみたいです」とついつい杯を重ねて、楽しい夜を過しました。
グランプラスで食事してみたり、洒落た居酒屋に入ったり、生活しているとなかなか贅沢は出来ないので、絶好の機会でした。
ちなみに、ベルギービールは800種類あるそうです。
滞在が1年未満なので1日3本くらい飲まないと間に合わない勘定。

日本人の若者同士で、ご飯を食べたりなんだりかんだりと遊んでいたのですが、同世代は大人になったんだなあと、妙なことに感動しました。

先生と一緒に調査に来た友人と、ブルージュ観光をしてきました。
現地調査の強迫観念にとらわれながらも、観光です。

古都です。京都鎌倉川越と同じような魅力があります。
先生も一押しでした。
見所は、街そのもの。
いわゆるヨーロッパのイメージそのままの世界観。ただただ歩くだけで楽しめる街です。


駅は、中心市街地のすぐ外側、歩いて15分くらいです。
すっきりと近代的。現在改修中。
ブリュッセルからは快速ICで約1時間。







去年ブリュッセルに留学した先輩の推薦のコンサートホール。
中までは確認できず。
中心部の街並みからも頭をのぞかせていますが、嫌らしい感じはしない。
ツーリスト・インフォもあり。






運河の街です。水面と建物の距離が近い。
ボートで運河巡りが楽しめます。6.5ユーロ。
ただし、雨が降っていてとても寒かった。
白鳥とか鴨とか、さわれそうな距離にいます。

フランス語と英語でガイドが付いていて、街や建築の紹介をしてくれます。
どうも面白そうなことを言っているらしい。

2008年11月3日月曜日

小演奏会 王立モネ劇場











昼間にやっているミニコンサートを聞きに、ブリュッセルの中心部にある、王立モネ劇場に行ってきました。
会場は、モネ劇場の小さな一室。王立だけあって、豪華絢爛な装飾です。
裏腹にお客さんも演奏者も、ラフな感じでした。こういう小さな演奏会が日々安く楽しめるのが嬉しい。
演奏中にしゃべるのだけは何とかならんか。

室内楽ですが、編成が面白い。
1曲目が、クラリネットとフルート。
2曲目が、フルートとハープ。
3曲目が、フルートとヴィオラとチェロ。
最後の曲が、フルート四重奏とハープ。

出だしの二重奏が固かったので、期待はずれかと思いました。
なかなかどうして、呼吸の合わせ方がうまいです。
おそらくは気楽に演奏しているんでしょうが、落としどころを外さないところが、ぐっときます。

ハープがとてもうまい。今回の演奏会の一押しでした。
もともと派手な楽器ですが、きびきびと動く手に見入りました。手と、楽器と、腕と、表情の間にできる濃厚な空間がたまりません。
間違った弦をはじいたりしないのだろうか、とはらはらするのは素人の杞憂だと思われるが、花火師のような稼業だとも思う。

どの曲も初めて聴きましたが、全体的に華やかな曲が多くて、楽しめました。会場も盛況。
シューマンをフランス音楽にしたらこんな感じかもしれない、という印象。

♪演目

André Jolivet : Sonatine (1961)
Jean Françaix : Cinque piccoli duetti (1975)
Albert Roussel : Trio, op.40 (1929) & Sérénade, op.30 (1925)

♪演奏家
Els Van Zundert (fl), Zygmunt Kowalski (vl), Justus Grimm (vc), Letizia Belmondo (hp), e.a.

http://www.demunt.be/demunt-1.0/programma/productie.jsp?id=1476